2010年09月02日

「個性」のはき違え

一昨日の信濃毎日新聞にこんな投書が載っていた。
「正しい日本語で書く力を鍛えて」と題する40代主婦の文章だ。
内容を要約する。

 新聞の投稿を利用して国語力を高めようとする上諏訪中学の取り組みは素晴らしい。
 私が小学生の頃は、作文におかしな点があれば先生が注意してくれたが、
 最近は誤字、脱字、表現の誤用などが見過ごされたままのものが少なくない。
 作文限らず「子供が表現したものを大人が修正すれば、その子の個性を否定してしまう」と
 考える傾向があるようだ。
 しかし、文章で個性を発揮するためには、正しい日本語の知識や正確に伝えるための
 表現技法を学ぶことは必須である。
 書く力を鍛錬する上諏訪中の取り組みが広がってほしい。


問題は中ほどにある「個性を否定してしまう」という考え方である。
投稿者も「傾向があるようだ」という表現に留めているように、
教師などから直接その言葉を聞いたわけではないのかも知れない。
忙しさで、一人一人の作文をじっくり添削している時間など取れないという実状もあるだろう。

しかし、火のない所に煙は立たない。
何でもかんでも個性、個性と、
その意味をはき違えているのでは?と思う例も少なからず見聞している。


ろくな挨拶もできなかったり、大人に対する言葉遣いが乱れたりしていても、
強制はよくない、個性を潰すと、毅然とした態度が取れない。
好きな科目を伸ばした方が個性が磨かれてよい、
嫌いな科目を無理にさせることはないと、早々に見切りをつけてしまう親もいる。
子どもの方もそんな大人の思いを感じて、
なにも無理する必要はない、これが自分の個性だと、努力することを放棄してしまう...。

だが、投稿者も指摘しているように、
個性というのは最低限の知識や技量を身につけた上に形成されるものではないのか。

各人の思想や文章の主旨まで踏み込むことは許されない。
大人受けするような、正論ばかりの作文に仕向けることも厳禁である。
しかし、日本語として間違っている字、言葉、文や、
論理が破綻したりわかりにくい文章については、的確なアドバイスを惜しんではならない。


前にも書いたが、学校の国語教育では作品の鑑賞にばかり重きが置かれ、「正しい感じ方」を強要される。
一方で「書く力」については個性を、というのでは話が全く逆である。
感じ方や主張は個性に任せ、「伝える日本語」を磨く練習こそ厳格に行うべきである。






「個性」のはき違え



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Posted by どーもオリゴ糖 at 12:48│Comments(2)ことば
この記事へのコメント
こんにちは。

 キレやすい子供の多くは、自分の気持ちのイライラを、どういう言葉を使って表現したらいいのかが判らないのだそうですね。

 つまり、知っている言葉の数があまりに少ないので、今の自分の怒りや悩みを言葉にして相手に伝える術がないのでしょう。

 だから、手っ取り早く暴力に訴えてしまうのだと思います。

 個性は大事ですが、誤った表現や貧弱な言語力では、その個性すら皆に届かないのではないかと思います。

 わたしも、文章を書いていて、「この状況をもっと的確に伝えるには、他にどんな言葉があるのだろう?」と、悩むこともしばしばです。

 どーもオリゴ糖さんのように、たくさんの言葉をご存知の方が羨ましいです。
Posted by ちよみちよみ at 2010年09月03日 17:12
ちよみさん、毎度ありがとうございます。

キレやすい子どもの話、私もそんな説を聞いたことがあります。
だからこそ、塾でも「伝える力」を育てたいと思っているのですが、
生徒たち、慣れないうちは説明がホントに下手です。
頭ではわかっていても、他者に伝えるとなるとこんなに難しいんだということを実感してもらっています。

言葉を多く知っていればその分思考も深まるし、当然伝え方もうまくなります。私など、まだまだボキャブラリー不足ですが、国語辞典と類語辞典は頻繁に引き、適切な言葉を探し出す努力だけは怠りたくないと思っています。信毎の「真田三代」を読んでいますが、作者の火坂氏の語彙は半端じゃない豊かさですね。初めて知る言葉も多く、とても勉強になります。
Posted by どーもオリゴ糖どーもオリゴ糖 at 2010年09月04日 11:10
 
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