2011年03月06日

比べる力

白鳥の 沼のほとりを 郵便夫

松代の塾では毎月生徒たちに俳句・短歌を覚えさせている。
月初めに季節に合ったものを7~8個選び、リストを渡す。
同時に教室内にも掲示する。

月の終わりにはチェックだ。
俳句なら初めの「五」だけが書いてあり、残りの「七・五」を埋めさせる。
短歌の場合は上の句の「五」と下の句の「七」がヒントになっている。
リストに挙げたうち、3個できれば合格だが、毎回苦労している子も多い。

冒頭の句は田中憲二郎という人の作である。
2月の俳句に採用した。
これを選んだ子の答を見て、あることに気づいた。
「沼のほとりを」を「沼のほとり」とする子が多いのだ。
「に」が違うと言うと、「沼のほとり」にして来る子もいた。
「に」や「の」では元句の情景が伝わらない。

そこで2月のチェックとは別に、単独の問題を急遽作成して中学生全員に与えた。
まず元句を掲載し、「白鳥の群れる沼のほとりを郵便夫が通り過ぎて行く」という解説を付ける。
次に「~を」を「~に」に換えた句を載せ、元の句と比べてどんな違いが感じられるかを答えさせるのだ。

何となく違うのは皆すぐわかるようだ。
問題はそれをどう言葉にするか...。

多いのは、「~に」だと郵便夫がいる感じになるという答。
確かに「~郵便夫」の後に言葉を補うなら(筆が進まない子にはこうヒントを出す)、
「~を」には「行く」や「通る」、「~に」には「いる」である。 

しかし、この答では両者の比べ方として物足りない。
「~を」でも、情景の中に郵便夫が「いる」ことに変わりはないのではないか...。
元の句ではこうだが「~に」に換えるとこうなるという、違いを明確にした説明がほしい。

模範解答はこんな感じか...。

 「~を」だと郵便夫が通り過ぎて行く様子が浮かぶが、
 「~に」だと郵便夫が立ち止まっている感じになる。


もっと簡潔に言うなら、こんなのはどうだろう。

 「~を」には郵便夫の動きが感じられるが、「~に」には感じられない。

比べる力を鍛えることは論理力の養成に役立つ。
詳しくは、また次回に...。





比べる力


<画像について>真田邸の釘隠No.2。何かのスイッチのようなシンプルバージョン。


同じカテゴリー(ことば)の記事画像
言語力の差
「てん」で話にならない
「思う」と「考える」(その2)
「思う」と「考える」(その1)
CMにつっこむ(1)
漢字のこだわり
同じカテゴリー(ことば)の記事
 言語力の差 (2011-08-09 12:00)
 「てん」で話にならない (2011-04-18 12:03)
 「思う」と「考える」(その2) (2011-02-17 12:45)
 「思う」と「考える」(その1) (2011-02-11 12:00)
 CMにつっこむ(1) (2010-12-28 12:05)
 漢字のこだわり (2010-12-06 12:08)

Posted by どーもオリゴ糖 at 11:57│Comments(2)ことば
この記事へのコメント
こんにちは。

 日本語は、面白いですね。

 「に」と「を」でまったく違う情景を見せてしまうのですから、奥が深いです。

 もしも、「に」だったら、転職でも考えているのかな?---と、想像してしまいますね。(笑)

 
Posted by ちよみちよみ at 2011年03月06日 16:17
ちよみさん、ありがとうございます。

なるほど。転職でも考えている....納得です!
仕事中なのに白鳥を眺めていると、息抜きというより何か悩み事があるのでは?と考えてしまうものですね。

「沼のほとりの」としてくる子もいましたが、これでもやはり立ち止まっている感じです。「~を」にしないと動きが出てこない。興味深いです。英語なら「~に」がby、「~を」がalomgでしょうか...。
Posted by どーもオリゴ糖どーもオリゴ糖 at 2011年03月07日 11:19
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。