酒の味を「覚える」

どーもオリゴ糖

2010年09月12日 13:22

言語力を育てる教材を製作中である。
まずは中学生向けのものから...。

著作権に抵触しないよう、「青空文庫」に収録されているものを題材にする。
第一弾は新美南吉作「おじいさんのランプ」である。

この話、おぼろげな記憶はあったのだが、
今回改めて読んでみて、素晴らしい作品であることを再認識した。
ぜひ皆さんにご一読いただきたい。

さて、これを元に様々な問題を作っているのだが、
市販の国語問題集とは一線も二線も画するものをということで、とても時間がかかる。
なんとか早めに仕上げたいのだが、遅々として進まない...。

物語の中盤、孤児だった主人公の「巳之助」はランプ屋で成功し、
立派に一家を支えるまでになった。
一部を抜粋する。

  巳之助はもう、男ざかりの大人であった。家には子供が二人あった。「自分もこれで
 どうやらひとり立ちができたわけだ。まだ身を立てるというところまではいっていない
 けれども」と、ときどき思って見て、そのつど心に満足を覚えるのであった。 


ここの「満足を覚える」という表現を題材にしようと考えた。
「覚える」を他の言葉に言い換えるとどうなるかを考えさせるのだ。
...ここではもちろん「感じる」、あるいは「思う」が正解となろう。
「違和感を覚える」「痛みを覚える」などと同じだ、

改めて読み返すと、今の部分のすぐ前にも「おぼえる」があった。
こちらは平仮名だ。
字が読めなかった巳之助は、区長に字を教わる。

  熱心だったので一年もすると、巳之助は尋常科を卒業した村人の誰にも負けないくらい
 読めるようになった。
  そして巳之助は書物を読むことをおぼえた。


この「おぼえる」はどうだろう?
先ほどの「覚える」とは明らかに意味が違う。
だからこそ、作者もあえて平仮名にしたのかも知れない。
言い換えればどうなるか...。

いっそのこと、いろいろな「覚える」を登場させて、
その使い分けを意識させる問題にしようかと考えた。
まずは辞書を引いてみる。

「広辞苑」は古語辞典の役割も兼ね備えているので、
「覚える」で引くと「覚ゆ」を見ろとあった。
古語としての意味は省いて紹介する。

 ①自ずとそう思われる。感じる。
 ②記憶する
 ③学んで知る。教えられて習得する。
 

続いて「旺文社国語辞典」。
 
 ①記憶する。忘れずに心にとどめる。暗記する。
 ②学ぶ。会得する。
 ③感じる。
  

さて、「書物を読むことをおぼえる」はどれにあたるだろう...。
近いのは「学んで知る。教えられて習得する。」と「学ぶ。会得する。」だが、
なにか違う気もする。
「仕事を覚える」や「料理を覚える」なら
「学んで」「習得する」というイメージでピッタリなのだが...。

この場合、読めなかった字を熱心に学び、ついに読めるようになった。
字を読むことを習得した、つまり「字を覚えた」のだ。
その結果として「書物を読むこと」が可能になっただけだ。
書物の読み方を学んだわけではない...。

困ったときは「新解さん(新明解国語辞典)」だ。

 ①心やからだで、そう感じる。
 ②(経験した事や習得した事を)忘れられないものとして心にとどめる。記憶する。
 ③(習得した事を)身につける。体得する。
 ④「思われる」意の老人語。


特筆すべきは②だ。
単に暗記する、記憶するではなく、しっかりと心に刻み込むというニュアンスが感じられる。
ただ、ここに挙げられている文例がピンとこない。

 「酒の味を覚える」

これは記憶するわけでも、心にとどめるわけでもない。
「知る」「知り始める」くらいの意味ではないだろうか...。

先に挙げた「書物を読むことをおぼえた」も、私はこれと同じだ解釈している。
字を読むことを習得して、本を読むことを知ったのだ。

辞書に「覚える」の意味を追加してほしいところだ。
皆さん、どう思われますか?
「酒の味を覚える」を「習得する」や「記憶する」で説明されて腑に落ちますか?ぜひご意見をお聞かせください。









関連記事