2010年11月11日

出没...

中学生向けの言語力教材(初級編)製作が佳境に入ってきた。
冬期講習に向けて折り込みチラシも作らねばならない。
さらに、ストーブ用の薪を割ったり、来季に備えて切ったりする作業もある。

そんなわけでブログの更新がままならない状況だ...。

今日の題材は「出没」という言葉。
今年は熊が里に下りてくる機会が多いようで、毎日のようにこの言葉を目にする。
熊ほど、この言葉がピタリと来る対象はいないのではないか。

オリジナル教材で、辞書の定義からその言葉を推測させる問題がある。
「現れたり隠れたりすること」という定義を読んでも、すぐには全く言葉が出てこない子が多い。
数分考えた後、「出現」と答える。
「出現」では現れるだけだから、もちろん×である。

ヒントを出すとき使うのが熊だ。
「熊が...」でピンと来ない子には、
「現れっぱなしじゃ撃たれたり捕まったりしちゃうぞ。ちょっと現れてすぐいなくなることだ」
「「出」は合ってるからあと一字を考えろ」などと助け船を出す。

それにしても、「出没」は便利な言葉だ。
熊が出る度にこの表現では、いささか食傷気味だが、他にふさわしい言葉がない。
類語辞典にあたっても「見え隠れ」「隠顕」「散見」くらいしかない。
どれも「出没」のニュアンスとは違う...。

英語ではどう言うのか、Yahoo翻訳で調べてみた。
「出没」と名詞で入れると「haunting」と出てきた。
haunt を調べると、他動詞で「~にたびたび行く」「~に出る、~に取り憑く、~を悩ます」とある。
ははあ...ディズニーランドの「ホーンテッド・マンション」の haunt か...。

haunt は名詞で
「行きつけの所、(動物などの)よく出る所、(犯人などの)巣窟」という意味もあるらしい。
かなり「出没」の匂いがしてきたが、やはり「没」のイメージが伴わない。
他動詞なので、場所を主語にして受動態の文にするしかなさそうだ。
「この地区は熊に取り憑かれている」のような表現になるのだろう。

「熊が出没する」を翻訳すると「A bear appears frequently.」になった。
単に「頻出する」と言っているだけである。
「出没」は「頻繁に」というニュアンスを、必ずしも伴わないのではないか...。

ところで、「出没」という言葉が合う主語は、熊などの獣以外に何が考えられるだろう?
痴漢、空き巣、引ったくり...幽霊...ろくなものがない。
どうもこの言葉は、出て来てほしくない何かに対して用いるようだ。
動物でも、美しいオオムラサキやカワセミ、愛らしいリス、探し求めていたクワガタなどには
「出没」は使われないのではないか...。

そう思っていたら、さすが「新解さん(新明解国語辞典)」。
「(幽霊・強盗・痴漢・獣など好ましくない存在が)時どき姿を現すこと」とあった。

とすれば、かなり主観が入った言葉ということになる。
出て来てほしいと思っていた人の幽霊なら、「出没」ではなく「出現」がふさわしい。
猟師にとっては、熊もそうであるかも知れない。

逆にリスやオコジョでも、畑を荒らしたり人間に危害を加えることがあれば、
好ましくない存在として「出没」を使われることになるだろう。

動物たちにしてみれば甚だ迷惑な言葉である。

それにしても、市街地でもこれだけ熊の出没が度重なると、
イノシシやカモシカが出る山間部ではヒヤヒヤものだ。
夜遅く帰宅し、車を降りてから玄関までたどり着く間の畑が怖ろしい。
鈴でも鳴らして通ろうか...。

























  


Posted by どーもオリゴ糖 at 12:44Comments(0)ことば