2010年08月11日

行くも帰るも

これやこの 行くも帰るも 別れては
        知るも知らぬも 逢坂の関


言わずと知れた蝉丸の歌である。
百人一首で最も有名な歌と言ってもいいだろう。
「坊主めくり」のとき、名前も姿も坊主らしからぬ蝉丸が出ると、
思わず笑いが出たものだ。

ここでいう「行く」「帰る」は畿内を中心にしている。
そこから出て行く者を「行く」、戻ってくる者を「帰る」と言っているのだ。

視点が変われば、当然「行く」「帰る」は逆転する。
そのため、各人によって視点がバラバラでは困ることには、
明確な基準を設けて誤解が生じないようにしなければならない。

鉄道の「上り」「下り」は最もわかりやすい例だろう。
東京駅に近づく方が「上り」、逆が「下り」である。

東京との直線距離ではなく、東京に行くために結果的に向かう方向が「上り」となる。
たとえば須坂の方が長野よりわずかに東京に近いが、
実際に東京に行くには一度長野に出なくてはならない。
従って須坂→長野が「上り」である。

因みに塩尻駅は、中央本線がここを境に運行系統が分かれているため、
新宿へ向かう列車も名古屋方面の電車も、ともに「上り」という異色の駅だ。

ぐるっと回る山手線や大阪環状線は「内回り」「外回り」で区別。
途中で東京駅を経由する京浜東北線は「北行」「南行」で分けている。

東京の外側を大きく回る武蔵野線は、なぜか西船橋→府中本町が「上り」
一応、千葉県より東京都の方を上に置いているのか...。

近鉄や名鉄など、路線も複雑で多くの主要駅を結んでいる私鉄では、
「上り」「下り」の基準をどう定めているのか興味深いところである。



生徒が帰りがけにこう言った。

 「水曜日は用事で行けません。」

ん?どこに...?
塾に来られないって意味?
自分が今その場所にいるのに「行けません」はおかしくない?

逆に電話で「今日来てもいいですか?」と聞いてくる場合もある。
かなりの違和感だ。

英語では、たとえば母親に「ごはんだよ」と言われたときの「今行くよ」は、
go は使わずに I'm coming. と言う。
使い分けは

 come : 話題・意識の中心への移動/正常・望ましい状態への変化
 go : 話題・意識から外への移動/異常・望ましくない状態への変化


...ということらしい。

生徒の「来てもいいですか?」にもその意識が含まれているのだろうか。
まさかそんなことはあるまいが、いずれにしても日本語としてはかなり不自然であろう。










  


Posted by どーもオリゴ糖 at 13:02Comments(0)ことば